『入浴福祉新聞 第30号』(平成2(1990)年4月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
入浴の歴史ものがたり⑥
立井 宗興
奈良時代に創始された施浴は、鎌倉時代に隆盛し、室町時代にも引き継がれていった。
そうした中世で生まれた習俗で面白いのが、「風呂ふるまい」である。
階層が分化し、上級の武士は自宅に浴室を設けられるまでになった一方、下級の武士や公家はそれを持てない。
そこで、浴室をそなえている裕福な家族は、先祖供養などの法事の際、招待した親類や縁者に、お風呂をふるまい、酒と食事を提供する、といったことが流行したのである。
いわば、信仰と娯楽を結合させた“お風呂の御馳走”というわけだが、この考え方が、後世の日本人に継承されていった。それがレジャーとしての温泉であり、旅先の宿が、旅人の入浴にことのほか気を使うといった奥ゆかしい風習である。
一方、お寺のボランティア施設=浴殿を模倣し、お金を取って入浴させる町湯が急増したのも、室町時代ごろといわれる。町湯は、平安末期の京都に初めて誕生したらしい記録はあるが、「京の町のいたるところに見られる」とまで表現されるようになるのは、やはり鎌倉から室町へと移りゆく、ニュービジネスの時代であった。
町湯の時間貸しも行われ、家族や仲間で入浴する公家などもいたようである。その方が、寺の浴殿や上級武士の浴室で入浴するより、プライドも保てるからだろう。
寺の浴室が主流だったころは、それを管理し、入浴の手伝いをする僧を「湯維那」とか「湯那」と称していた。しかし、町湯が急増してゆくなかで、そうした世話役に女性が進出する大変革も生じている。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
日常から介護まで 総合入浴情報サイト お風呂インフォ